2015年4月   馬場 哲

このたび杉山伸也前代表理事のあとをうけて、社会経済史学会の代表理事をお引き受けすることになりました。責任の重さを痛感しておりますが、微力ながら学会の運営に努めてまいりたいと思っております。どうかよろしくお願いいたします。

社会経済史学会は、1930年末に発足して今年で85年目を迎える伝統をもち、会員数約1400名を誇る、経済史関連では日本で最大の学会です。社会経済史は、空間的には日本、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカなど全世界に及び、時代的には中世あるいはそれ以前から現代に至る長い期間をカバーし、方法的にも経済学と歴史学という二大母胎を基本としつつも、社会学、地理学、教育学などの隣接分野も必要に応じて利用する学際性の強い学問ですが、それだけに様々な考え方が拮抗・並存している面があります。本学会の良さと強みは、そうした社会経済史学の多様性を保障する場を提供することだと私は考えております。会員の自発的で創造的な多彩な活動を引き出し、かつそれを支える体制を作ることが重要な任務と言えます。

第80巻目を数えた社会経済史学会の機関誌『社会経済史学』の刊行は、いうまでもなくそうした本学会の中核的事業です。5年前に移行した季刊化もすっかり定着し、毎号質量ともずしりと重い機関誌を会員に提供できることは嬉しいことです。今年より編集実務が有斐閣アカデミアから雄松堂に移ることになりましたが、編集委員会には、レベルを維持しながら定期刊行を続ける努力を引き続きお願いしたいと思います。

本学会もいくつかの重要な課題を抱えています。社会経済史に限りませんが、ひとつが研究活動の国際化です。本年8月にはいよいよ世界経済史会議(WEHC2015)が京都で開催されます。わが国で開催される経済史関連の国際会議としてはおそらく最も大きなものであり、多くの会員が準備・運営、報告、出席などの形で関わることになります。学会としても参加費の補助など側面からのバックアップを前期以来おこなってまいりましたが、是非とも成功させていただきたいと願っております。また、これも前期に企画として決まっていたものですが、英文モノグラフ・シリーズ(全6巻)の刊行がスプリンガー社から準備されており、第1巻目が世界経済史会議の開催に合わせて刊行される予定です。第2巻目以降も準備中で逐次刊行されることになっております。これは、『社会経済史学』や『社会経済史学の課題と展望』に掲載された論文・書評の一部をテーマ別に再構成して、できるだけ原文に忠実に英文化して刊行するもので、どのような反響を得ることができるか非常に楽しみです。

もうひとつが若手育成策です。これも社会経済史に限ったことではありませんが、経済史研究・教育の環境を整えて次代を担う若手を育成することは、社会経済史学という学問分野の一層の発展をはかるうえで不可欠の課題です。本学会では、2011年より次世代研究者育成ワークショップ(SEHS Next Tide Workshop)を開始し、昨年まですでに4回開催されて成果を挙げています。しかし、若手といってもすでに一定の実績のある人が中心であり、より若い大学院生をどう取り込むかなどの改善すべき課題も会を重ねるなかで浮かび上がってきました。そこで今年度は、世界経済史会議もありますので、これまでの形式では開催せず、企画委員会を中心に今後どのような形でこの事業を続けるべきかを検討する予定です。また、前期に問題となった「経済学分野の参照基準」に対する本学会の対応なども踏まえて、あるべき経済史教育について検討を行うことも考えられます。

最後に触れておきたいのが、情報化委員会の活動です。この委員会はもっとも新しく設置された委員会ですが、学会ホームページの充実、バックナンバーを含む会誌や英文モノグラフ・シリーズのウェッブ上での公開、ニュースレターほかの会員へのサービスなど、任務の重要性がこのところ急速に高まっています。技術的な知識も必要ですし、セキュリティの問題にも十分な配慮が必要です。またこの分野にどの程度の予算をあてるべきか、ということも検討しなければなりません。したがって、委員会の体制の整備は、今期におけるもっとも重要な課題のひとつになるだろうと思っております。

言うまでもなく、本学会の活動は、個々の会員の地道な研究・教育活動と北海道、東北、関東、近畿、中国・四国、九州の各地方部会の活動によって支えられていますが、冒頭で述べましたような多様性を保証しつつ、それを学会全体の活動の充実につなげていくのが、私、常任理事会、さらには理事会の役目だと思っております。会員の皆様のご理解とご協力を切にお願い申し上げます。