金融・証券関係資料の保存と公開に関する要望書

 平成十三年四月一日から「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下、情報公開法)が施行されたことは、日本の金融・証券界の現状と歴史についての研究を正確な資料に基づくものとする上で画期的なことであり、金融・証券の研究に携わる研究者として大いに歓迎しております。特殊法人についても保有する情報の公開に関する法整備が間もなくなされるものと期待しています。

 ところで言うまでもないことですが、情報の公開は、公開されるべき的確な情報が作成され、適切な形で整理・保存されることが前提であります。重要な情報が記録として残されなかったり、一旦作成された記録が恣意的に廃棄されたりしますと、重要な情報を公開できない結果となり、「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」(情報公開法第一条)という情報公開の目的を果たすことが不可能になります。

 最近の省庁再編成の中で、それぞれの官庁が保有してきた資料の管理もまた再編成を余儀なくされているようですが、その過程で長年にわたって保存されてきた資料の廃棄が進むのではないかということが研究者の間では危惧されております。また、情報公開法の運用にさいして、資料の保存期間の再検討が行われ、きわめて短期間の保存ののち廃棄処分にされる資料が増加するのではないかということも危惧されております。もちろん保存スペースの限界もあるでしょうから、全ての情報を永久に保存にしてほしいなどと言う積もりはありません。しかし、例えば最近にかけての日本の金融構造の劇的な変化を明らかにするためには、一九七〇年代初頭の金・ドル交換停止による変動為替相場への移行と第一次石油危機を契機とする高度成長の終焉という転換点にまで遡って、銀行と企業の関係の変化と行政の関与のあり方の推移を跡づける必要があります。歴史研究の場合は、古い時代になればなるほど乏しくなる残存資料のなかで、行政機関や特殊法人が保有する資料は、きわめて貴重な役割を演じてきましたし、これからますますその役割は高まるでしょう。

 したがって、少なくとも日本経済に多大な影響を及ぼすような事項についての資料は、できるだけ長期にわたって保存し、保存期間終了後は、国立公文書館や付属のアーカイブなどに移管して保存・公開して下さるよう要望致します。そのさい企業などの法人から非公開の約束で得た情報については、一律に非公開を続けるのではなく、時間の経過を考慮しつつ法人の正当な利益を損なわない範囲での公開を行ってくださるよう要望致します。

  平成十三年十月十六日

 日本金融学会会長    堀内 昭義
 証券経済学会代表理事  小林 和子
 社会経済史学会代表理事 石井 寛治
 経営史学会会長     宮本 又郎
 土地制度史学会理事代表 廣田  功

財務大臣   塩川 正十郎 殿
金融庁長官  森  昭 治 殿
日本銀行総裁 速 水  優 殿